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経済活動におけるジェンダー差(性差)を解明 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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【ポイント】

① 婚姻状態、子どもの有無、家族人数といった個人の家族属性は、独立起業と社内起業の 双方におけるジェンダー差を強く説明する要因ではない。

② 個人の労働実態属性、より詳しくは、パートタイム労働に従事しているかどうかという 点が重要であることが判明した。

③ 女性がパートタイムに従事することは、独立起業におけるジェンダー差を縮める方向に 働く一方、社内起業におけるジェンダー差を広げる方向に働くことが見出された。

④ 個々人が、パートタイム労働のように労働外時間をより多く持てるような機会を選択で きると同時に、フルタイムを望む個人に対しては、ジェンダーに関わらずその機会が確 保されることによって、独立起業・社内起業の双方においてジェンダー差が解消される ことが示唆される。

経済活動におけるジェンダー差(性差)を解明

名古屋大学大学院経済学研究科(研究科長:野口晃弘)の安達 貴教(あだち たかのり) 准教授は、大阪大学大学院経済学研究科博士課程の久田 貴紀(ひさだ たかのり)氏との共 同研究で、経済活動におけるスタートアップ活動について、ジェンダー差(性差)を分析 し、その背景的要因を明らかにしました。

新たなビジネス機会を創造する「スタートアップ活動」は、世界的にその重要性がますま す認識されてきています。また同時に、ジェンダー差(性差)が解消され、人々がより平等 に経済的・社会的機会を享受するための取り組みも積極的に行われています。本研究は、そ のような時代的背景を念頭に、近年のアメリカ合衆国を対象として、スタートアップ活動 におけるジェンダー差に注目し、その背景的要因を探るべく、実証分析を実施しました。

本研究の独創的な点は、スタートアップ活動を「独立起業」と「社内起業」とに分類した 上で、それぞれにおけるジェンダー差の背景的要因を考察した点にあります。なお、本研究 の対象はアメリカ合衆国であり、そのため、我が国を始めとする他国に対してその知見を 援用することには留保が伴いますが、本研究の知見が、より多くの国における「スタートア ップ活動のジェンダー差」に関する学術的知見と政策的示唆の蓄積に貢献することが期待 されます。

こ の 研 究 成 果 は 、 企 業 経 済 学 研 究 の 分 野 に お い て 国 際 的 に 知 ら れ て い る 英 文 学 術 雑 誌

「Small Business Economics20173月号の巻頭論文として掲載されました。

名古屋大学は、「名古屋大学ベンチャービジネスラボラトリー」(http://www.vbl.nagoya- u.ac.jp/)を中心母体として、独立起業・社内起業との地域的かつグローバル的な連関を強 め、社会に対する技術的還元を積極的に行っています。また、国連の男女共同参画キャンペ ー ン HeForShe に 賛 同 し た 取 り 組 み も 行 っ て お り (http://heforshe.provost.nagoya- u.ac.jp/本年10月末にはジェンダーをテーマとする「名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ ライブラリ」の開設が予定されています。「独立起業・社内起業におけるジェンダー差」と いう双方にまたがる世界的課題に対し、より幅広い社会的視点からの問題解明に、本論文 が貢献することが期待されます。

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【研究背景と内容】

新たなビジネス機会を創造する「スタートアップ活動」は、長期的経済成長の源泉であり、 停滞する世界経済の現状を打開すべく、現在、全世界的に益々その重要性が認識されてきて います。他方、国連の男女共同参画キャンペーンHeForSheに代表されるように、ジェンダ ー差(性差)が解消され、人々がより平等に経済的・社会的機会を享受するための取り組み も積極的に行われています。これは、人々がよりインクルースィヴ(包括的)に平等で経済 的・社会的機会を享受するための世界的な取り組みです。

本研究は、そのような時代的背景を念頭に、近年のアメリカ合衆国を対象として、スター トアップ活動におけるジェンダー差に注目し、その背景的要因を探るべく、実証分析を実施 しました。

-分析結果要旨-

本 研 究 の 独 創 的 な 点 は 、 ス タ ー ト ア ッ プ 活 動 を 、 従 来 か ら 強 調 さ れ て い た 独 立 起 業

(Entrepreneurshipアントレプレナーシップ)のみならず、社内起業(Intrapreneurship イントラプレナーシップ)も含めて実証分析を行ったことです。前者は、一人あるいは少数 の個人が、スタートアップ活動の責任の多くを負うため、成功した時は見返りが大きいです が、失敗した時の損失も負担しなければならないというリスクを伴います。他方、社内起業 においては、失敗した時には将来の昇進にマイナスというような要因はありますが、独立起 業とは異なり、大きな金銭的な負担は伴わないと考えられます。同時に、成功した時の見返 りの多くは、社内起業を行った個人あるいはグループの属する組織に還元するものと思われ ます。現代社会においては、伝統的なアントレプレナーシップ概念である独立起業のみなら ず、社内起業も同様に「スタートアップ活動」としての重要性を持っています。

このような二種の異なる性質を持つスタートアップ活動において、ジェンダー差の違いは どのように表われているのでしょうか? 本研究は、アメリカ合衆国・ミシガン大学社会研 究センター(University of Michigan, Institute for Social Research)が提供している、「起 業動態パネルデータ」(Panel Study of Entrepreneurial Dynamicsを利用し、20052006 年当時における全米的スタートアップ活動の実態を対象としました。本研究が使用したデー タでは、独立起業と社内起業のいずれにも関わってない個人の集団において、女性は51%を 占めていたものの、独立起業に関わっている個人の集団においては36%、社内起業に関わっ ている個人の集団においては 30%と、双方のスタートアップ活動のそれぞれで関与する女 性の比率が低いことが分かります。このジェンダー差はどういった要因に起因するのか、研 究グループは当初、個人の家族属性が重要な役割を持つのではないかと予測しました。例え ば、女性は子どもがいることによって、独立起業に携わる確率(そもそも男性と比べれば子 どもの有無を問わず低いであろうが)をそれでも上げる方向に作用し、社内起業に携わる確 率を下げる方向に作用するという仮説を持ちました。これは、例外的なケースもあるでしょ うが、全体的に見れば、独立起業は、比較的時間の融通が利くと考えられるのに対し、社内 起業は、時間の縛りがかかるコミットメント(責任的関与)が比較的要請されると考えられ るからです。

しかしながら、幾つかの角度から実証分析を行った結果、子どもの有無や婚姻状態、そし て家族の人数といった家族属性自体は、独立起業及び社内起業のいずれにおいてもジェンダ ー差を説明する強い要因とはなっていないことが判明しました。その検討作業を進めていく 過程において、本研究グループは、むしろ、個人の労働実態属性がより重要役割を果たして いることを見出しました。より具体的に言えば、パートタイム労働に関わるジェンダー差で す。予想されるように、女性がパートタイムで働く比率は、男性よりも高いですが、このパ

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ートタイムにおけるジェンダー差が、独立起業と社内起業に対して逆の効果を持っているこ とが発見されました。即ち、女性がパートタイムに従事することは、独立起業におけるジェ ンダー差を縮める方向に働く一方、社内起業におけるジェンダー差を広げる方向に働くこと が見いだされました。このことから、女性が独立起業を行いやすくするためには、準備期間 確保のためのパートタイム従事の機会が重要である一方、女性がより社内起業に関与してい くためには、女性がフルタイムで従事することが重要であることが示唆されます。

以上、分析結果のポイントは、以下のようにまとめられます。

・ 婚姻状態、子どもの有無、家族人数といった個人の家族属性は、独立起業と社内起業の 双方におけるジェンダー差を強く説明する要因ではない。

・ その一方で、個人の労働実態属性、より詳しくは、パートタイム労働に従事しているか どうかという点が重要であることが判明した。

・ より具体的には、女性がパートタイムに従事することは、独立起業におけるジェンダー 差を縮める方向に働く一方、社内起業におけるジェンダー差を広げる方向に働くことが 見いだされる。

これらのことから、個々人が、パートタイム労働のように労働外時間をより多く持てるよ うな機会を選択できると同時に、フルタイムを望む個人に対しては、ジェンダーに関わらず その機会が確保されることによって、独立起業・社内起業の双方においてジェンダー差が解 消されることが示唆されます。

【成果の意義】

「スタートアップ活動の促進」と「ジェンダー差の解消」は、国や地域を問わず、現代社 会が直面している喫緊な重要課題です。本研究は、この二大課題を交差させ、問題の所在に 対するより深い認識、そしてそれをベースにした政策等による問題解決への議論に対し、学 術的知見から貢献することが期待されます。とりわけ、本研究が見出した知見は、パートタ イム労働の異なる位置付けです。組織外における独立起業がより多くの女性によって担われ るためには、パートタイムの活用によって雇用を確保しながら、起業準備に費やすことが出 来るという点が重要である一方、組織内における社内起業におけるジェンダー差の解消のた めには、より多くの女性がパートタイムではなくフルタイムで従事することが重要であるこ とが示唆されます。従って、個々人が、パートタイム労働のように労働外時間をより多く持 てるような機会を選択できると同時に、フルタイムを望む個人に対しては、ジェンダーに関 わらずその機会が確保されることによって、独立起業・社内起業の双方においてジェンダー 差が解消されていくことが期待されます。

なお、本研究は、データが比較的入手しやすいアメリカ合衆国を対象としているために、 我が国を始めとして他国にその知見を適用することには留保が伴うことにご注意ください。 とりわけ、個人の家族属性は、独立起業・社内起業のジェンダー差を強く説明しないという 本研究の結果は、社会的に保育環境が比較的整備されていると考えられるアメリカ合衆国の 状況に依存しているとも考えられ、我が国を対象として同様の分析を行った場合は、家族属 性が重要との分析結果が得られる可能性は少なくないかも知れません。同様に、我が国の労 働環境の文脈では、フルタイム・パートタイムの区別よりも、正規雇用・非正規雇用の区別 の方が重要とも考えられます。

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【書誌情報】

本研究は、名古屋大学大学院経済学研究科准教授・安達貴教と大阪大学大学院経済学研究 科博士課程学生・久田貴紀の二名からなる研究グループによって実施され、その研究成果は、 企業経済学研究の分野において国際的に知られている学術雑誌「Small Business Economics20173月号の巻頭論文として掲載されました。

書誌情報は以下となります。

Adachi, T. and Hisada, T. “Gender Differences in Entrepreneurship and Intrapreneurship: An Empirical Analysis,” Small Business Economics, Vol. 48, No. 3 (March 2017), pp. 447-486.

https://link.springer.com/article/10.1007/s11187-016-9793-y

安達准教授は、過去に、本研究と関連するテーマの一般向け啓蒙書の書評も執筆していま す。書誌情報は以下となります。

安達貴教「書評 Scott A. Shane (2008), The Illusions of Entrepreneurship: The Costly Myths That Entrepreneurs, Investors, and Policy Makers Live By 『経済科学』(名古 屋大学大学院経済学研究科)第59巻第2号、20119月、pp.51-57

http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/jspui/handle/2237/15918

参照

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